「胡錦濤皇帝」に拝謁を賜った小沢一郎 (週刊新潮2007/12/13)

「先例のないサービスをいただき感謝しております」。椅子に浅くちょこんと座り、背筋を伸ばした小沢一郎氏は、胡錦濯主席に声を震わせてこう育った。人権侵害やら他国への干渉では他の追随を許さない中国の皇帝に、卑屈な態度で拝謁した小沢氏。が、開会中の国会を無視して強行した訪中に「見るに耐えない」と党内からも批判が噴出−−−

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「あれは、なんだ? あいつは本当に日本人か」
 12月7日金曜日夜。北京、訪問中の小沢一郎・民主党代表が中国の胡錦涛・国家主席と会見したニュースが流れた時から、永田町は、その小沢代表の卑屈な態度に話題がもちきりとなった。

 ふてぶてしさと横柄な言動が売り物で、これまで″政界の壊し屋″と恐れられてきた小沢氏。参院選大勝後の8月、アメリカのシーファー駐日大使を党本部に呼び出し、45分間も待たせて報道陣に″晒し者″にした上で、テロ特措法反対を表明するという非礼を働いたことも記憶に新しい。

 しかし、その小沢氏も中国の皇帝の前では、まるで借りてきたネコ。ちょこんと椅子に座った小沢氏は楯びたような笑いを浮かべ、「ただいま主席閣下自らですね、今回の参加者の団員のものと写真を撮っていただきまして…‥・、そしてまた、みんなと握手までしていただきまして……、先例のないサービスをしていただいて、本当に感謝しております」
 と、小さな、そして震える声で、そう言ったのだ。
 小沢氏の上ずった声とは対照的に、余裕綽々でにっこり笑う胡主席。それはまるで、謁見に東た臣下を皇帝が日を細めて迎え入れる風情だった。

「実は、この直前に記念撮影があったんですが……」
 とは、日本からの随行記者団町一人だ。
「小沢訪中団は民主党議員45人、一般から募った391人の合計436名からなります。12月6日、小沢氏は午後3時に北京に到着しましたが、この時から中国側の厚遇は始まっていました。特別通関で入国した小沢氏は黒のロングリムジンの迎えに乗り込み、パトカーの先導で、行く先の信号をすべて青にしてもらって、ノンストップで北京市内に入りました。昨年の訪中ではなかったことなので、いつもより早いなあ=@と満足気でした。しかし、翌7日のさらなる厚遇ぶりに、すっかり感激したのです」
 この小沢訪中団の目玉は、人民大会堂での中国首脳との記念撮影である。

 ここでもし軽くあしらわれては、小沢氏の括券にかかわる。しかし1 出てきたのは胡錦涛国家主席その人であり、しかも記念撮影では、前列にいた人たち一人一人に、胡氏が丁寧に握手をして微笑みかけるというサービスを見せたのである。

 別の随行記者によると、
「よほど感激したんでしょうね。小沢さんは、すごかったなあ、びっくりしたなあ、とあとで連発していました。人民大会堂の大ホールで、一辺が50b以上はあろうかという広大な所で、450人近い人間が胡氏と小沢氏を中心に記念撮影をしました。そのあと、二人は会談に向かいましたが、その部屋も縦横20〜30bはある広い部屋。そこに椅子がハの字型に並べられており、真ん中に胡氏と小沢氏が座り、両サイドに関係者が座りました」
 小沢氏の卑屈な態度は、まさにこの時、生まれた。

 随行記者がつづける。
「小沢氏が緊張して上ずった声で、胡氏にお礼の言葉を述べたのです。小さい声で、普段の小沢氏を知る人間としては、実に印象的なシーンでしたね。身分の高い人への謁見が実現して、感謝と感激に震えている、という感じでした」
 が、新テロ特措法をめぐって与野党が対立している終盤国会の折も折である。
 その重要な国会を放り出してまで、この皇帝拝謁旅行はやらなければならないものだったのだろうか。

人権弾圧の皇帝に対して

 民主党本部によれば、
「もともと民主党は、中国共産党との問で、定期交流をしようと″交流協議機構″というものを作り、今年1月に日本で会議を行いました。また、それとは別に小沢代表が長年、草の根でやっていた″長城計画″という交流もありました。今年は、ちょうど日中国交正常化35周年であり、これを記念して、この二つを是非一緒にやろうということで訪中団が計画されたのです」
 なんでも当初は1000人の参加者を目指して募集をおこなったが、思うように集まらず、結局、半分以下に落ちついたという。

 民主党の関係者は、
「当初、11月初めが締切だったのですが、なかなか集まらず、2次、3次募集をかけました。議員や秘書が必死で集めるのですが、最後は10人束ねて集めてきたら、その秘書の分は半額にする、という話もあったそうです。旅行費用は3泊4日で約20万円。割高ですので、苦労していました」
 そんな悪戦苦闘の末の訪中だっただけに、胡錦涛氏が出てきて、あれほどサービスしてくれたことに、小沢氏はすっかり感激してしまったらしい。

 だが、したたかさでは人後に落ちない中国共産党である。そのツケを、民主党は今後、あちこちで払わなくてはならなくなる。
 いや、その″代償″はすでに払わされ始めている。

 中国は、国内の人権問題に干渉されることを最も嫌う国だ。全土で人権侵害がおこなわれ、「世界一の死刑大国」として知られる中国は、特にチベット族やウイグル族など少数民族への弾圧は過酷で、アムネスティでも毎年のように大問題にされてきた歴史がある。

 11月、チベットのダライ・ラマ14世が訪日し、チベットでの人権回復を訴え、鳩山由紀夫・民主党幹事長とも会見した。すると中国大使館は民主党に対し、<鳩山幹事長がダライラマと会見し、彼への支持を表明した言論に大変驚き、強い不満の意を表します>
 と前置きして、
<貴党の小沢一郎党首は来月上旬民主党大型代表団を引率して訪中することになっています。(中略)中国側のチベット問題における立場を切実に尊重し、今後類似の事が二度とないよう、また、民主党と中国との関係を引続き正しい方向に向かって健全的に発展できるようと厳正に要請します>
 と、猛抗議をおこなったのである。

 だが、この余波を受けたのは、同時期に来日していたウイグル族の人権活動家、ラビア・カーディル女史の方だった。彼女を招いておこなわれる予定だった民主党関係者による勉強会が、「中止」に追い込まれたのだ。

(中略 中止になった経緯)

 いやはや、民主党はウイグル弾圧の貴重な生き証人を、中国に配慮して排除″してしまったのだ。何たる腰抜けぶりか。

党内に噴出した大批判

 このキャンセルされた勉強会の代わりに、自民党の中川昭一氏や衛藤品二氏、あるいは無所属の平沼起夫民らがラピア氏を急遽呼び、勉強会を開いている。

「11月28日にラビアさんが空いているというので、ホテルの部屋を借り、私たちが勉強会をやったんです」
 とは、自民党の衛藤属一参議院議員だ。
「ラビアさんは新盤ウイグル自治区の弾圧の模様を詳しく話してくれました。有識者が民族主義者のレッテルを貼られて次々投獄されたり、ウイグル語を教えることも許されず、デモの逮捕者が親戚や友人にまで及び、6万人に逢したとか、東大へ留学したウイグル人が一時帰国した際、研究のためにウイグル語の資料を図書館でコピーしたら拘束され、懲役11年の刑を受け
て今も獄中にいるとか。また死刑囚は見せしめのためにトラックの荷台に乗り街中を走らされた上で処刑されるとも言っていました。彼女は、民主党の勉強会が中止になったことにショックを受けたようで、その話をうなだれてしていたのが印象的です」
 衛藤氏は、今回の訪中を成功させるために、民主党がこうした勉強会を中止したことについて、こう語る。「民主党もこうした話をきちんと開けばいいと思いますよ。小沢さんは、あの(会議の時の)態度はどうしちやったのかね。中国に尻尾を振っているどころか、尻尾を巻いてしまっている。東シナ海のガス田の話も尖閣諸島の話もできなければ、抗日記念館やチベット、ウイグルの話もできなかった。小物も小物、日本の外交を抱えるような人じゃないと思いましたね」

 国会をほっぼり出して、ただ中国に楯びを売りに行っただけだったというのだから、永田町が呆れ返ったのも無理はない。
 では、民主党の中には今回の訪中に対して、何の反対意見もないのだろうか。
 実は、党内に耳を澄ますと、痛烈な批判が渦巻いているのである。
 例えば、民主犀の大江康弘参議院議員は、
「これでは国民に対して説明がつきません。6日に開かれた外交防衛委員会と総務委員会は民主党議員が7人も欠席したんですよ」
 と、こう怒っている。
「今回の訪中は完全に朝貢外交です。せっかく中国のトップと会談しながら、中国の困ることには蓋をし、へりくだってしまったのです。訪中団も、実はあまり人が集まらず、幹事長名で議員や秘書に参加のお触れを出し、やっとのことで44人集めたのですよ。小沢代表は、自分一人で行けば良いのにわざわざ声をかけ、自らに従うのか従わないのかを見て、擦り寄る者は可愛がり、子分にし、親中派にしていく。これは踏み絵に等しい。民主党はますます国民から支持を失っていくのではないでしょうか」
 痛烈なる小沢批判である。

「お粗末すぎて恥ずかしい。見るに耐えませんでした」 と嘆くのは、民主党の渡辺秀央参議院議員だ。
「小沢代表は、訪中前の会見で、″日本はアメリカ一辺倒、中国にもへつらっている″″私は中国にもアメリカにも言うべきことを言う″と言って、中国に向かいました。しかし、結果はあの通りです。あの物見遊山に国対委員長まで一緒に行くなど、言語道断。行かせた人間もそうだが、行った人間もお粗末です。恥を知るべきですね。かつて小沢代表は、外交は政府の専権事項で、二元外交を批判していました。しかし、今回やったことはまさに二元外交そのものです。小沢代表はすっかり変わりましたね。本人が狂ったのか、それとも周りが狂わせたのでしょうか」
 大江、渡辺両氏は、小沢氏の自由党時代からの同志である。民主党でも共に戦ってきた仲間でありながら、中国に対する小沢氏のあまりに卑屈な態度に呆れ果てたのである。

中国に仕える奴隷政治家″

 政治評論家の屋山太郎氏がいう。
「中国というのは、臣下の礼を、つまり家来のような態度をとる者を優過します。そして家来にしては″領有″して、さらに家来を作り、また″領有″する。そうやって侵略してきたのが彼らの歴史なのです。小沢氏はそれに俵まった。今回、450人を広間に集めて写真撮影をしましたが、中国はこれを今後、国内の宣伝に使っていくでしょう。日本が大挙して、臣下の礼をとりに来た、と。小沢というのは、弱いものに対しては威張りますが、強いものに対してはダメ。福田の媚中派政権も問題だが、小沢はもっと始末が悪いね」

 在日の中国人ジャーナリスト、石平氏がいう。
「小沢が訪中した翌日、人民日報は一面トップで会談の内容を取り上げていました。そこに出ている小沢の発言は、本当にひどい。なんと、胡錦濤主席がお忙しい中、会見していただいたことに感謝します=酷本国民は中国の最高指導者が日中友好に大変な関心を持って下さったことに深く感動しています″と言っているのです。小沢は″日本は中国の属国です″と世界に知らしめたのと同じですよ。
実はこの文言は、よく人民日報に出てきます。中国の一地方政府の役人が主席と面会した時、″胡錦濤同志がわが地方のことに関心を払っていただいたことに感謝します″と発言するのです。
つまり、小沢さんは中国の一地方の役人と同じ立場で物を言っている。これは朝貢外交より酷い。彼には、四川省辺りの共産党の小役人が相応しいですよ」

 胡錦濤主席が日中友好に問心を払うも払わないも、それは国益のためにやっていることは自明のはずだが、
 「どうしてそんなことに日本国民が感動しなければならないのか、意味がわかりませんね」
 と、石平氏がつづける。
「そもそも小沢さんに日本国民が感動している″と言う資格があるんですか。
いつから彼は日本国民の代表者になったのでしょうか。
そして、いつから彼には日本国民を胡錦濤より下に置く資格ができたのでしょうか。国会という本来の仕事をさぼって中国に行ったにもかかわらず、東シナ海のガス田開発や尖閣諸島のことについても何も言わない。日本人なんだから、チベットやウイグルのことはまだいいですよ。しかし、日本にとって重大な問題についてもなぜ言わないのか。これでは胡錦濤に媚びを売りに行っただけのこと。銀座のホステスがお客さんの気を引くために皆で出張したのと何も変わりません」
 石平氏は、中国人として日本人に開きたい、という。

「なぜ日本の政泊家には、ご主人様に仕える奴隷のような人しかいないのでしょうか。そして、胡錦濤の足元に挽くような人が、なぜ選挙で大勝できるのでしょうか。日本人全体がこのような人を選挙で勝たせてしまったことを恥ずかしいと思って欲しいです」
 こんな政治家を次期総理候補と仰がなければならない日本人こそ哀れ、いや、滑稽というほかはない。

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